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エッセイバックナンバー
  2007.11
「途中下車の風景」
  2007.10
「安曇野にふたたび」
  2007.09
「小さい秋」
  2007.08
「もうひとつの故郷」
  2007.07
「詩人に惹かれて」
  2007.06
「森林に抱かれて」
  2007.05
「恋みくじ」
  2007.04
「春風に連れられて」
  2007.03
「椅子の独りごと」
  2007.02
「小雪の舞う石畳を歩けば」
  2007.01
「夢を描く」

 

かつて、東洋のスイスと呼ばれた信州の諏訪地方。その蓼科高原に素敵なチロル風のホテルがあると聞いて訪ねてみた。そのホテルの名は「ハイジ」という。
もう随分前のことになるが、「アルプスの少女ハイジ」というテレビアニメが人気を呼んだ。1974年に放映が始まり、視聴率が20%を越えたというから、知る人も多いかと思う。5歳でアルムのおじいさんのもとに預けられた主人公のハイジ、最初に友達になった子ヤギのユキちゃん、ヤギ飼のペーター、そして、セントバーナード犬のヨーゼフ、可愛いキャラクターがよみがえってくる。楽しい山の生活を描いた配色のきれいな作品だったが、いま考えてみると、背景となっているアルプスの大自然の描写があまりにも美しい。30年を経た今でも人気があるようで、東京MXテレビや北海道テレビでの放映が続いている。ホテルの創業が1975年だというから、アニメにちなんでつけられた名前なのかもしれない。

さて、中央自動車道の諏訪ICを降りて蓼科高原へと向かった。料金所を出てすぐに右折し、まもなく立体交差の下を左折すると、ほぼ一本道で蓼科高原へと通じている。以前は「ビーナスライン」と呼ばれる有料道路だったが、今は一般道として、蓼科から霧ヶ峰、美ヶ原高原まで、その美しい風景が楽しめる。
市街地を抜けると、リゾートらしい雰囲気が広がってきた。道路沿いには、信州そばの店や小さなレストランが点在している。高度を上げながら20分も走っただろうか、右手に「バラクラ・イングリッシュガーデン」が見えた。人気のスポットらしく、たくさんの車が停まっている。ここは、日本初の本格的な英国式庭園で、世界のイングリッシュガーデンの一つとして、米国にも紹介されているという。ドーム式の洒落たエントランスを入ると、なにやら別世界だった。3000種を超えるという植物のコレクションも美しそうだが、焼きたてスコーンやケーキ、手作りジャムなどのフードショップも気になる。入り口の右手には、庭の見えるテラスレストランもあって楽しそうだ。帰りに伝統のアフタヌーンティーでもいただくことにしよう。
さらに高度を上げて、蓼科湖の入口を過ぎたあたりに「マリーローランサン美術館」があった。ここも、ローランサンの絵がコレクションされた貴重な美術館だが、帰りの楽しみにして先を急いだ。
この美術館から、ほんの少し走った左手に、アーチ型の門が架かった坂道が見えてきた。丘の上の林の中には、白い壁の建物が見える。ここが、ホテルハイジへのアプローチだ。ワクワクしながら登る坂道は、木立を縫うようにしてホテルのエントランスへと続いていた。


  「いらっしゃいませ」
上部がアーチ型になったシンプルな木製ドアを開けると、小さなフロントから声がかかった。歴史を感じさせる古びた雰囲気が何とも言えない。
「食事をしたいんですが」
「こちらへどうぞ」
暖炉の火が燃えるロビーを通って「クララ」と呼ばれるレストランに案内いただいた。赤いシェードのランブが下がったテーブルがいくつか見える。小さな窓にかけられた可愛いレースと緑色のカーテンが印象的だ。
「こちらがランチのメニューです」
ウエイトレスさんのチロリアンドレスもよく似合っている。

パスタランチもあったが、せっかくなので軽いフレンチを注文した。値段も3000円と手ごろだ。身体にやさしそうなスープ、新鮮な野菜が添えられた肉料理、ふんわりと甘さの広がるデザート。雰囲気も素晴らしいが、味付けも上品で、なかなか美味しい。
なんとなく幸せな気分に包まれたランチのひと時になった。
窓越しに見えていた芝庭に出て見た。アルプスの草原を思わせるような緑の庭が美しい。真っ青な空に白樺と白いテーブルが良く似合っている。四季折々に自然と調和して美しそうだが、夏ならここで食事をするのも気持ちよさそうだ。
その庭を少し下ったところに、小さな建物があった。近づいて見ると露天風呂だった。そういえば、このあたりは蓼科温泉郷と呼ばれ、温泉の豊富なところでもある。アルプスのイメージとは少し違うが、あたりの高原を散策した後、こんな温泉に入れたらうれしい。下の方からは、渓流の音が聞こえてくる。こもれ日のさす木立の間から渓谷を眺めながら温泉に浸かるのもいいだろう。


いつの間にか十二月を迎えた。まもなく、このあたりは真っ白な雪に覆われてきれいになるだろう。
クリスマスにはパーティーも開かれるという。
「こんなホテルのレストランで、ピアノ演奏を楽しみながらワインを傾けるなんていいだろうなぁ」。
今年も多忙続きのまま年末を迎えてしまいそうだが、いつの日か、ここにゆっくりと泊まり、素敵なクリスマスの夜を迎えられることを楽しみにしたい。

 
 
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